


揖保みどり保育園エントランスホール 壁画
~こどもたちの無限の可能性を描く~
園長先生から最初にお問い合わせがあったのは、2023年、コロナ禍を経て社会が徐々に落ち着きを取り戻しはじめたころでした。園舎の建て替えに伴い、新園舎のエントランスホールに「光とともに五感を刺激し、こどもたちの想像力や好奇心を育むようなアートを取り入れたい」とのご相談でした。
コロナ禍を経て、こどもたちに贈るアート
コロナ禍では、保育園も病院と同様に多くの制約を受け、こどもたちが自由に遊べない日々が続きました。 保護者の皆さんも、日々の生活の中でさまざまな不安やストレスを抱えていたことと思います。
「園に一歩入れば、別の楽しい世界が広がっていて、こどもたちには、そこでのびのびと過ごしてほしい」 。先生方の想いを受けて、弊法人としては初となる保育園でのホスピタルアートが始まりました。
フルイミエコさんが描く「やさしさが拓く未来へ」
原画を手掛けてくださったのは画家のフルイミエコさん。フルイさんの作品では、動物や植物など、たくさんのモチーフがちりばめられ、自由でのびやかな世界が広がっています。その世界観がこどもたち一人ひとりの個性や可能性を映し出すようで、今回の企画にぴったり合うと依頼しました。
実際に壁面に描いた職人さんが「こどものような心を持っていないと、こんな風に描けない」と思わず口にされたように、今作品からはフルイさんのこどもの世界に向けた真摯であたたかいまなざしを感じることができます。また、制作現場を訪れたフルイさんがその再現性の高さに大変驚いておられたことも覚えておきたいと思います。
未来へつながる風景を
同園は祖母から父、そして現園長先生へと親子三代にわたり、受け継がれてきた歴史ある保育園です。園児の保護者の中には卒園生もいらっしゃるとのこと。それぞれの思い出が重なり合い、世代を超えた絆が同園には息づいています。
エントランスホールはこどもたちだけでなく、ご家族みんなを温かく迎える大切な場所です。今作品が日々の親子の時間に寄り添い、心に残る風景となって、こどもたちのこれからの歩みを勇気づけることができるなら、これほど嬉しいことはありません。
壁画「やさしさが拓く」のこと
二つのことを述べます。ひとつは個人的な思い出です。私が心に残る最初の絵は、紛れもなく幼稚園の自分の椅子に付けられた、自分専用の座布団にあった林檎の絵でした。それは刺繍で美しく作られており、ピンクと赤の林檎の実、黄緑と緑の葉っぱの形が今でも瞼に残っています。母が作ってくれたものでした。その刺繍を人差し指でそっと撫で、膨らんだ糸の滑らかさが気持ちよくて、恍惚と浸っていたことを懐かしく思い出します。幼児期に触れるものは、子どもの感性に大きく影響します。ですからこの度の壁画の仕事は責任が重く、大きなプレッシャーがありました。この壁画の色と形の美しさやリズム、不思議さが、子どもたちの感性を育む環境として、ささやかな働きを果たせるようにと、ひたすらに願っています。 そしてこの絵には幸福な景色が描かれていことを覚えておきたいと思います。戦争が続いています。長く続いています。それも非常に理不尽な。非人道的なことが続けられている。多くの子どもが犠牲になっています。私たち大人でも、希望が見えない日もあります。だけど、それでも世界には、快復の力があると信じたいのです。子どもたちの生きる未来には希望があることを見いだしたいのです。人間がやっていることが間違えていたとしても、世界には美しい場所があり、物があり、美しい人たちがいます。美しい生き様があり、人と人の関係があります。それらは文学や音楽や美術などの芸術で表され、数学や化学や植物学や天文学など科学として記されて溢れています。子どもたちがそれらに豊かに出会い、世界の素晴らしさをいっぱい受け取ることができますように。そしていつか人生の壁にぶつかることがあっても、世界に希望を持って生きることができますように。そんな祈りを込めて、この作品のタイトルは「やさしさが拓く」としました。「拓く」はものごとを前に向けてすすめるという意味です。世界を輝かせるのは優しさや思いやりです。作品と共に子どもたちに送ります。
このような機会をいただきまして、損保みどり保育園とNPOアーツプロジェクトの皆様、全ての関係者の皆様に感謝いたします。
2025年7月11日 フルイミエコ
このページに掲載している写真は、壁画制作の途中経過を撮影したものです。
完成後の様子は、揖保みどり保育園のInstagram にてご覧いただけます。

