四国こどもとおとなお医療センター
海を渡る蝶 2016
2008年旧養護学校を訪れたとき、壁面に蝶蝶が描かれているのを目にしました。
それはとても小さな壁画でしたが、近づけば羽音まできこえてきそうなくらい丁寧に描き込まれていました。群れをなして飛ぶ蝶蝶に一羽たりとも同じ模様はありませんでした。思い思いの方向に向かってやわらかに楽しげに飛ぶ姿は「自分らしく自分のペースで生きれば良い」
という画家からの、そして教員からの無言のメッセージを発しているようで強く心を動かされました。移転になり、建物は取り壊され蝶たちも消えてしまいました。
しかしその壁画の想いを受け継ぎたい。という気持ちは日ごと増していきました。
受け継ぐ。
2015年、四国こどもとおとなの医療センターと善通寺養護学校、高松市立美術館の協力により病院外壁に群蝶図を描く「海を渡る蝶」の長期プロジェクトがスタートすることとなりました。
デザイン・色調監修担当のアーツプロジェクトスタッフは「あさぎまだら」という蝶をモチーフに選びました。
「あさぎまだら」はあのか弱い羽で数千キロの海を渡るのです。
毎年卒業生と共に描く群蝶図。「人はか弱い。が強い。」ここから巣立ってゆく卒業生に蝶たちはエールを送り続けてくれるでしょう。「自分の羽で自分のペースで飛べば良いんだよ」と。長い旅の途中で立ち止まることもあるでしょう。その時は思い出して欲しいのです。
仲間たちと希望を胸に蝶を描いたあの日のことを。
プロジェクトを終えて
壁画制作の様子は後日、E テレの特集番組「病院にアートがあるということ」で放送されました。
生徒たちのアンケート結果を持って来てくださった先生は「正直なところこんなに前向きなアンケート結果は珍しいです」と、笑顔で茶封筒を手渡してくださいました。
昨年美術館に転勤された先生は「教室ではとても静かだった生徒がテレビで堂々とコメントしている様子を見て、胸がいっぱいになりました。」と話されました。アンケートには個性的な字で感謝の言葉が綴られていました。
その中に「今日は帰って久しぶりに母にも電話して報告したくなった」というコメント見た時、壁に描かれた蝶蝶がかすかに羽ばたいたような気がしました。
ワークショップ(手法の練習)~制作
ディレクター
森合音
デザイン・指導
マスダヒサコ
制作
善通寺養護学校 教員・卒業生
虹色ボランティア・大学生